ご依頼を頂きまして誠にありがとうございます。
今回は 2023年製 Gibson Custom Shop Goldtop(過去にリフィニッシュ歴あり) をベースに、トップ面のみを対象として、わざとらしくないヴィンテージ感へ仕上げました。
リフィニッシュ内容は
- トップ面:ゴールドトップの質感再構築+レリック加工
- 仕上がり:自然な経年変化に見える丁寧なエイジング(打痕は控えめ)
- こだわり:ブラスパウダー塗装由来の金属的な深みと、緑青(りょくしょう)の成立
- 仕様グレード:Master Build 仕様(質感・膜厚・境界・光の返りまで追い込み)
Goldtopの背景(なぜ“あの質感”が出るのか)
Les Paul は1952年に金色仕上げで登場し、P-90+トラピーズテールピースを搭載してスタートしました。その後1957年にはハムバッカーが加わり、1958年にサンバースト(いわゆる“Burst”)へ展開していきます。つまりGoldtopは“起点”であり、1957年は転換点でもあります。Gibson+1
そして、ヴィンテージGoldtopの「金属の奥行き」は、単なる金色塗料ではなく、金属粉(一般にbronze/bronzing powderと呼ばれるもの)をニトロ系クリアに混ぜた層で生まれます。さらに、クリアが摩耗して金属粉が露出すると酸化が進み、緑に転ぶ個体がある——これが“緑青が出るGoldtopの根っこです。Premier Guitar
(※金属粉は製品によって銅・亜鉛系=真鍮系の組成であることも明記されています。Douglas and Sturgess)
今回のゴール設定(色味と劣化度合い)
お客様のご要望は 「わざとらしくないヴィンテージ感」。
そこで今回、色味は寄せ方を先に固定しました。
- 劣化度合い:Lightly Used(大切に弾かれてきた自然さ)
- 色の方向性:明るい金ではなく、トップコートの焼けを感じる ダーク寄り / ハニー寄り
- 経年の段階:
- ① 適度ないぶし(今回採用)
- ② さらに進んだ ブラウン寄りのいぶし(今回はやり過ぎに見える可能性があるため見送り)


再現の要点(ichimonziの設計)
今回のポイントは、見てすぐ分かる派手さではなく、断面と光の返りです。
- ブラスパウダー:粒度330を採用
- テスト塗装を行い、緑青が成立する条件を事前に検証
- サンディングシーラーを極薄で使用し、吸い込み差・面精度を均一化
- (当時工場工程の完全再現は資料が断片的で断言しづらい一方、今回の個体はリフィニッシュ履歴があるため、仕上がりの安定性を優先し“極薄”で制御しました)
- 金属層を二層に分けることで、塗膜断面のリアリティを作る
- 金属粉+クリア(無色)層:金属の芯
- 金属粉+クリア(アンバー)層:焼けた金の体温
- その上で、アンバークリアを微調整しながら、狙ったいぶしへ着地
製作工程(トップ面)
1)検証・下準備
テストピース(緑青の成立テスト)


2)下地の均一化(極薄シーラー)
- 目的は厚く守るではなく、面と吸い込みの差を整えること
3)ゴールド層(ブラスパウダー+クリア)|ドライ気味に構築
- 金属粉は沈みやすく、ムラは派手に出ます。
そこで、ウェットで寝かせず、ドライ気味に数回で整列させます。
4)ゴールドの“焼け”を作る(ブラスパウダー+アンバー)
- 木目が隠蔽されるまで数回。
- ここが「ただ金」にならない核心で、深みと古さが出ます。
5)色味の最終調整(アンバークリア)
- アンバーを増やすではなく、少しずつ寄せて止める。
- 今回は「①適度ないぶし」で止めています。
6)ウェザーチェックと緑青(エルボー面+周辺チェック)
今回の狙いはここです。
エルボーの面の摩耗と、そこに寄り添う エルボー付近のウェザーチェックに、緑を“置く”のではなく 成立させる。
- 先にチェックを入れ、金属粉が息をする入口を作る
- 反応は局所的に、薄く、段階的に
- 色が出たら必ず反応を止め、塩分・残留を残さない(将来の腐食リスク回避)
- ピックアップざぐり内も加工

7)トップコート〜研磨(最終の“手触り”)
- 仕上げは鏡面に寄せ過ぎず、しかし安っぽい曇りにも振らない
- 触ったときの古さまで含めて、Master Buildとして整えます
完成画像と見どころ(完成の読み方)
- 正面で派手に主張しないのに、斜め光で 金属の層が立ち上がる
- 摩耗境界が“線”にならず、なだらかな面で消える
- 緑青は「塗った緑」ではなく、チェックと摩耗に沿って生まれる緑
- トップ面のみ施工でも、全体の時間感が破綻しないようにバランスを取る
最後に
Goldtopは、派手な色ではなく「時間の金属」です。
今回の個体は、元の履歴を踏まえつつ、狙いを 適度ないぶし に固定し、ブラスパウダー層を二層で設計することで、見た目だけでなく断面の説得力まで追い込みました。
この先、弾かれていく時間の中で、摩耗と艶の落ち方がさらに馴染んでいくはずです。
ご依頼、誠にありがとうございました。
施工範囲外メモ(塗膜のふくらみ)
本個体は施工前の時点で、ボディ裏面の側面と背面が切り替わるR部に、直径約5mmの塗装のふくらみが複数箇所確認できました。触診では膜がたわんで戻る挙動があり、一般に塗膜が下地から部分的に浮く「ブリスター(層間剥離)」に近い状態が疑われます。
このような現象は、R部が塗膜が溜まりやすい形状であることに加え、過去の塗装履歴や下地塗膜(樹脂系など)の条件によって層間の密着が局所的に弱くなった場合、温度変化などをきっかけに点在して現れることがあります。
現状は安定しているため、直射日光や高温環境、急激な温度変化、特定箇所の圧迫を避けてご使用ください。状態に変化が見られる場合は、現物確認のうえ最小リスクの対処をご提案します。






















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