ご依頼を頂きまして誠にありがとうございます。
今回は Les Paul のリフィニッシュ/レリック加工として、1958〜60 Burstが褪色して、淡い黄〜レモンのグラデーションへ移り変わったように見える空気感を狙って製作しました。
今回の仕上げは、単に「黄色を綺麗に塗る」ではなく、
赤が消えた後の説得力と、ネック裏の触感まで含めて再現することがテーマです。
リフィニッシュ内容は
- Top:Lemon Burst(トランスイエロー+極薄の赤で自然なグラデーション)
- Relic:Murphy Lab 1959 Reissue “Ultra Heavy Aged Lemon Burst” の質感を参照(特にネック裏)
- Weather Check:Tom Murphy 氏の手作業スタイルをベースに設計
- Body:Master Build 仕様(膜厚・境界・光の返りまで追い込み)
- Head:既存ロゴ除去 → ビンテージ同様のステンシルで再現
- 電装:ピックアップ交換(導通確認済)/必要に応じてパーツ選定・交換対応
Lemon Burst の背景(なぜあのレモングラデになるのか)
1958〜60年の “Burst” で見られる Lemon / Dirty Lemon / Lemondrop と呼ばれる表情は、単なる「黄色」ではなく、時間が作った色です。
一般に、当時の赤系カラーは環境(紫外線など)で褪色しやすく、年月の中で赤が抜けていきます。
そこへニトロセルロースラッカーのクリアが経年でアンバー(黄変)して重なり、結果としてトップが 淡い黄〜レモン方向へ移り変わって見える――この流れが、レモンバーストの根っこになります。
ここで大切なのは、レモンバーストの魅力が
黄色の鮮やかさではなく、「赤が消えた痕跡の残り方」にある点です。
だからこそ今回は、単色のイエローにせず、退色後の空気感まで含めて設計しています。
今回のゴール設定(色味と劣化度合い)
今回のゴールは、お客様がご提示くださった参考の方向性から、
- レッドがほぼ退色している
- 綺麗なイエローが残っている
- そこへ Murphy Lab “Ultra Heavy Aged” の質感を重ねる
この3点を固定しました。
見てすぐ分かる派手さより、
近くで見たときの説得力(境界・触感・光の返り)を優先しています。
再現の要点(ichimonzi の設計)
今回の仕上がりを成立させるための設計は、主に
- オリジナル構造再現:ニトロセルロースラッカーのみで構成
- 超薄膜仕上げ:塗膜厚は 1/100mm 単位で制御
→ 重量増を抑え、共鳴性(鳴り)を阻害しない方向へ - ハンドシェーディング:低圧エアブラシでグラデーションを手作り
→ 境界が線にならない、退色後の自然さへ - エイジング設計:成立する表情だけを採用(やり過ぎない)
- フルセットアップ:ネック調整/電装チェック/弦高調整まで含めて整える
製作工程(施工中の記録)
1)Before / 現物診断(色・履歴・成立条件の確認)
仕上げの成否は、施工前にほぼ決まります。
塗膜の癖、木の吸い込み、既存の表情を把握したうえで、狙いを固定します。
2)素地調整(面精度・吸い込み差の均一化)
薄膜で成立させるためには、下地の段階で面を整える必要があります。
厚い塗膜で隠すのではなく、薄いまま成立させる方向へ。



3)シーラー+トランスイエロー(レモンの芯を作る)
ここは「黄色を塗る」工程でありながら、実は色の芯=温度を作る工程です。
黄色が浅いと、完成後にレモンになりません。
4)レモンバースト・シェーディング(赤は極薄)
赤は見せる色ではなく、消えた痕跡のために置く色です。
境界が線にならないよう、低圧でじわっと溶かし込みます。
5)クリア(アンバー)で「時間の温度」を作る
ここでのアンバーは、増やすほど正解ではありません。
少しずつ寄せて、止める。これが“わざとらしさ”を消すコツです。
6)ウェザーチェック(表:Murphy系 / 裏:自然発生寄り)
今回、表面と背面で「成立理由」を変えています。
同じチェックでも、発生ロジックが揃っていないと急に嘘っぽく見えるためです。

7)ヘッド:樹脂突板の条件下でロゴ再現を成立させる
今回の個体は、ヘッドの突板にブラックの樹脂が使われていました。
そこで、表面クリアを剥がし、クリア下の Les Paul ロゴを除去。
樹脂を隠蔽するため Gibsonロゴをマスキングしてブラック塗装 → アンバークリア → 乾燥研磨後、
ビンテージ同様のステンシル塗装で Les Paul ロゴを再現し、最後にレリックで馴染ませています。
注意点として、突板が樹脂のため、ヘッド外周のダメージは最小限。
樹脂が露出すると「木が削れた表情」ではなく「樹脂が欠けた表情」になりやすく、全体の説得力を崩しやすいからです。

8)背面マホガニー(導管+ステインで“古さの密度”を作る)
導管を整えつつ、ステインで色を入れ、ビンテージらしい風合いへ。
新品の均一さではなく、木の表情がほんの少し揺れる方向へ寄せます。



9)パーツの加工
金属パーツのくすみ、サビの再現
プラスチックパーツの黄ばみ、スレ
ボリューム、トーンノブは内部から腐食する現象を再現しています。


10)組み込み/セットアップ/最終検品
見た目だけではなく、演奏面も含めて “即戦力の一本” へ整えます。
ピックアップはお預かり品へ交換し、導通確認まで完了しています。
また、組み込み時の電装チェックにて、フロント側の既存コンデンサーに再生(修理)された形跡が見られ、加えて接触不良が確認できました。
安定性を優先し、音の方向性を崩さないよう 同等品へ交換しています。
交換部品:MONTREUX ( モントルー ) Retrovibe Cap “G59”

完成画像と見どころ(完成の読み方)
今回の完成は、正面の派手さより 斜め光で本領が出ます。
- 赤を足した感ではなく、赤が消えた後の説得力
- グラデ境界が“線”にならず、面として溶ける
- 表面はMurphy系、背面は自然発生寄り――部位で理由が違う
- ヘッドは樹脂突板の条件下で、ロゴ再現とダメージのバランスを成立
最後に
Lemon Burst は、派手な色ではなく「時間の色」です。
今回は、赤が消えた後の説得力と、薄膜ニトロ特有の光の返りを軸に、Murphy Lab の質感の方向へ寄せて設計しました。
弾かれていく時間の中で、摩耗や艶の落ち方がさらに馴染み、より自然な表情へ育っていくはずです。
ご依頼、誠にありがとうございました。
取扱いメモ(ラッカー/エイジングの注意)
ニトロセルロースラッカーは、温度差・直射日光・圧迫によって表情が変化します。
急激な温度変化を避け、保管は高温になりにくい環境をおすすめします。
育っていく素材として、変化も含めて楽しんでいただけたら嬉しいです。
同じようなご相談をお持ちの方へ
ichimonzi では、ヴィンテージの雰囲気を「それっぽく」ではなく、
なぜそう見えるかから設計して再現します。
もし同様のご相談があれば、下記をいただけると再現精度が一段上がります。
- 参考個体の画像(できれば 屋外日陰/室内/斜め光 の3条件)
- 「色」よりも「時間感」を優先したいか、「派手さ」を優先したいか
- ネック裏の触感(粘り/サラつき/引っかかり)の好み
- 可能なら、理想の劣化度合い(Light / Medium / Heavy の方向性)
仕様と状態に合わせて、最適なプランをご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください。






























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