ご依頼をいただき、誠にありがとうございます。
今回は、SGCrafts Journeyman TKR-01をモチーフに、ボディ、ネック、パーツを含めたリフィニッシュ&レリック加工を行いました。
お客様が求められたのは、単に赤いシースルー塗装を施したストラトキャスターではありません。
SGCrafts Journeyman TKR-01特有の、手作業感、薄い塗膜、赤の中に沈む黒ずみ、缶スプレーで塗られたような粗さ、そして“完成品”というより“現場で使われてきた道具”としての空気感でした。
今回の制作では、画像資料をもとに塗装構造を検証し、テストピースを複数作成したうえで、色味、塗膜の質感、シミの出方、ウェザーチェック、木部加工、パーツの馴染みを一つずつ調整しています。
お客様のご要望概要
今回の主なご要望は、SGCrafts Journeyman TKR-01の雰囲気を、可能な限り自然に再現することでした。
主な内容は以下の通りです。
- レッドのシースルー塗装
- 木目に沿って現れる黒ずみやシミの再現
- 缶スプレーで塗装されたような塗膜の質感
- バフ研磨された美しい艶ではなく、経年したような控えめな艶
- よく見ないと分からない程度の自然なウェザーチェック
- H-HからS-S-Sへのザグリ変更
- ピックアップザグリ変更部をできるだけ目立たせない加工
- 藤倉化成 D-500によるキャビティ内の導電塗料処理
- スプリングキャビティ内のトレモロブロック可動域拡大加工
- ネック、ボディ、パーツ全体を一体感のある雰囲気に仕上げること
- ネックシェイプ
今回特に重要だったのは、「きれいに作る」ことではなく、「当時その場で作られたように見えること」でした。
粗さを雑に見せず、自然な説得力として成立させることが、今回の大きなテーマです。
SGCrafts Journeyman TKR-01――“工業製品”よりも“現場の道具”としてのギター
SGCrafts Journeyman TKR-01は、GLAYのTAKURO氏との関係で語られることの多い、SGCrafts/Journeyman系の中でもストラトキャスター・タイプに位置づけられる一本です。
佐久間正英氏が関わったJourneymanというブランドは、単なる高級ギターというより、レコーディングやライブの現場で実際に使えることを重視した、実用本位の楽器として知られています。
興味深いのは、その作りの思想です。
美しいショールーム用の仕上げというより、音、鳴り、扱いやすさ、そしてプレイヤーの身体に馴染むことを優先していたように見えます。
さらに未確認情報ながら、佐久間氏が市販の缶スプレーを塗装に使用したとも伝わっています。
もし事実であれば、これは「安価な方法で済ませた」という話ではなく、道具の格式よりも、結果として出る質感や音を優先したという、佐久間氏らしい逸話として受け取れます。
TKR-01の魅力は、スペックだけでは語りきれません。
そこには、プロデューサーでありプレイヤーでもあった佐久間氏の、「楽器は飾るものではなく、音楽の現場で鳴って初めて意味を持つ」という感覚が残っています。
だからこそJourneymanは、今も単なる中古ギターではなく、当時の音楽制作の空気を含んだ一本として語られ続けているのだと思います。



こだわったポイント
1. レッドのシースルー塗装に現れる黒いシミの再現
今回の塗装で最も重要だったのは、赤のシースルー塗装の中に見える黒ずみの再現です。
画像を確認すると、黒ずみは単純に黒を上から吹いたものではなく、木目や下地の状態に沿って自然に沈んでいるように見えました。
そのため、まず塗装方法として以下の可能性を検証しました。
- ステイン塗装の上からシーラー+トップコート
- ステイン塗装の上からトップコート
- キャンディ塗装
試し塗りの結果、今回は「ステイン塗装の上からシーラー+トップコート」が最も有力であり、現物画像に近い状態を再現しやすいと判断しました。
黒ずみは、意図的に“黒い模様”として描くと不自然になります。
そのため、木目に沿って色が深く入ったように見えることを重視し、テストピースを複数作成しました。
レッドのトーン、黒ずみの強さ、ステインの塗布回数、トップコート後の見え方を確認し、最終的な色味を決定しています。
2. 缶スプレーで塗装されたような質感の再現
今回のもう一つの大きなテーマは、缶スプレーで塗られたような質感の再現です。
対象はボディだけでなく、ネックも含めています。
通常のラッカー塗装では、下地を整え、塗装と研磨を繰り返し、最終的に滑らかで美しい艶に仕上げていきます。
しかし、今回その方向へ仕上げてしまうと、TKR-01らしい手作業感や荒さが失われてしまいます。
そこで、通常のラッカー塗装工程をある程度行ったうえで、最後の3層付近ではあえて研磨を入れず、ウェット気味の吹き方とドライ気味の吹き方を繰り返しながら、ゆず肌のような塗膜感を作りました。
さらに最後のクリアでは、あえてウェットに吹き切らず、ドライ寄りに仕上げています。
その後、コンパウンドで軽く整えることで、塗りたての強いテカリを抑え、経年によって少し落ち着いたような艶を再現しました。
きれいにしすぎない。
しかし、雑には見せない。
これを探る作業が、今回の塗装では非常に重要でした。
3. 自然なウェザーチェック
ウェザーチェックは、深く大きく入れれば古く見えるわけではありません。
今回のTKR-01再現では、缶スプレーで塗られたような塗膜の質感と、画像から読み取れる表面の雰囲気を考慮し、よく見ないと分からない程度の自然なクラックを入れています。
過度に割れを強調すると、ヴィンテージギター風には見えても、TKR-01特有の空気とは少し離れてしまいます。
そのため、チェックはあくまで控えめに、光の角度でふと見える程度に留めました。
4. H-HからS-S-Sへのザグリ変更
元のザグリはH-H仕様でしたが、今回はS-S-S仕様へ変更しています。
ザグリ変更では、同素材を使用し、木目方向もできるだけ揃えて埋木を行いました。
ただ埋めるだけでは、シースルー塗装の下で境界がはっきり出てしまいます。
そこで、塗装時に埋木部分がシミや木目の一部に見えるよう、木部に色を入れたうえで下地処理を行い、その後に薄くソリッドレッドを重ねています。
これにより、ピックアップザグリ変更部ができるだけ目立たないように工夫しました。
ただし、今回は極薄ラッカー塗装で仕上げているため、木質の違いにより、光の角度によっては表面にわずかに浮き出る部分があります。
これは厚い塗膜で覆い隠す方向ではなく、薄い塗膜で素材感を残す方向を選んだ結果でもあります。
5. 藤倉化成 D-500による導電塗料処理
キャビティ内には、藤倉化成 D-500を使用して導電塗料処理を行いました。
TKR-01の再現では見た目の雰囲気が注目されがちですが、楽器として使う以上、ノイズ対策も重要です。
今回はキャビティ内を丁寧に処理し、外観だけでなく、実用面でも安心して使える状態を目指しました。
6. スプリングキャビティ内のトレモロブロック可動域加工
スプリングキャビティ内のトレモロブロック部には、TKR-01と同様に、アーミング時の可動域を広げるための加工を行いました。
この加工は外から大きく見える部分ではありませんが、実際の演奏感に関わる重要な部分です。
単なる外観再現ではなく、プレイヤーが使う道具としての再現を意識しています。
7. 表面の質感の再現
画像では伝わりにくい部分ですが、今回最も神経を使った要素の一つが表面の質感です。
赤いシースルー塗装、黒ずみ、ゆず肌、控えめな艶、薄いウェザーチェック。
これらがそれぞれ別々に主張してしまうと、全体として不自然になります。
今回の仕上げでは、一つひとつの要素を強く出しすぎず、実物を見たときに「作った傷」ではなく「そうなってしまった質感」に見えるよう調整しました。
8. お好みに合わせたネックシェイプ加工
今回のネックは、塗装やレリックだけでなく、演奏時の握り心地にもこだわって加工を行いました。
お客様のお好みのネック形状に近づけるため、ネックシェイプを調整しています。
単に厚みを落とすのではなく、ローポジションからハイポジションまでの握り替え、親指の当たり方、コードフォーム時の収まりを確認しながら、自然に手に馴染む形状を目指しました。
SGCrafts Journeyman TKR-01は、見た目の再現だけでなく、実際に演奏する道具としての感触も重要です。
そのため、外観の質感と同じく、ネックの握り心地も今回の制作における大切な要素として仕上げています。
ピックガード加工とカラーリング調整
今回使用したピックガードは、ネックポケット部の形状がそのままでは合わなかったため、ネックポケットに合わせて加工を行いました。
ピックガードはボディやネックとの取り合い部分が少しでも不自然だと、全体の印象に影響します。
そのため、ネックポケットとの隙間やラインを確認しながら、違和感が出ないよう慎重に調整しました。
また、カラーリングについては、お客様にご持参いただいたサンプルのピックガードを基準に調整しています。
単に白くするのではなく、経年したパーツとして自然に馴染む色味になるよう、ボディカラーやピックアップカバーとのバランスも見ながら仕上げました。
さらに、ボディのレッドが透けて見えないよう、ピックガード背面には白で塗装を施しています。
裏面についても表面との質感差が出ないよう、違和感のない範囲でレリック加工を行い、全体として自然な仕上がりになるよう調整しました。
Build Process
今回のようなTKR-01再現では、単に赤く塗装してレリックを入れるだけでは雰囲気が出ません。
実際には、以下のような工程を想定して制作を進めています。
画像資料の検証
まず、お客様からご提示いただいた複数の画像を確認し、以下の点を分析しました。
- レッドの色味
- 木目の透け方
- 黒ずみの位置と強さ
- 塗膜の厚み感
- 表面のゆず肌感
- ウェザーチェックの入り方
- 塗装剥がれの境界
- トレモロ周辺の手加工跡
- ピックガードやパーツとの色味バランス
TKR-01は、通常のヴィンテージ・ストラトのような整った劣化ではなく、手作業で作られたような独特の粗さが魅力です。
そのため、一般的なレリックの定型には当てはめず、画像ごとに質感を確認していきました。
木部加工・ザグリ変更
H-HからS-S-Sへ変更するため、ピックアップザグリの埋め直しと再加工を行いました。
埋木では、できるだけ同系統の材を使い、木目方向を合わせます。
その後、シースルー塗装で境界が目立ちにくくなるよう、木部の色味を調整しました。
また、スプリングキャビティ内には、トレモロブロックの可動域を広げるための加工を行っています。




ネックシェイプ加工
塗装工程に入る前に、お客様のお好みのネック形状に合わせてネックシェイプを加工しました。
ネックシェイプは、数値だけで決めるものではなく、実際の握り心地やポジション移動時の違和感に大きく関わる部分です。
そのため、必要以上に削りすぎないよう注意しながら、手に馴染む形状を目指して少しずつ調整しました。
加工後は下地を整え、塗装後も自然な質感になるように仕上げています。



旧ネックの太さに一致するように精密に合わせました。
ネックポケット調整
新たに使用するネックは、旧ネックよりも約0.8mm太かったため、ネックポケットの幅を調整しました。
センターがずれないよう、片側だけを大きく削るのではなく、左右それぞれ約0.4mmずつ慎重に拡張しています。
加工後はネックの収まり、センターライン、弦落ち、仕込み角を確認し、最終組み込みに進めました。

下地処理
塗装前の下地は、滑らかにしすぎると今回の目的から外れてしまいます。
一方で、荒れたまま塗装すると、単に雑な仕上がりに見えてしまいます。
そのため、塗装が自然に乗る状態を作りながら、必要以上に整えすぎない下地を意識しました。
ステインによる色味と黒ずみの調整
レッドの下に現れる黒ずみは、塗装の表面に黒を乗せるのではなく、木部側から沈むように見せることを重視しました。
テストピースでは、レッドにブラックを加えたもの、レッドにブラックとブルーを加えたものなど、複数の色味を試しています。
そのうえで、ステインの回数や濃度を調整し、画像上のTKR-01に近い赤の深さを探りました。


シーラーとトップコート
試し塗りの結果、今回はステインの上にシーラーを入れた方が、画像で見られる塗面に近いと判断しました。
シーラー無しの場合、薄い塗装感は出しやすい一方で、塗面の状態が目標と少し異なりました。
そのため、ステイン、シーラー、トップコートの構成で、薄さと質感の両立を狙っています。




缶スプレーのような塗膜感の再現
通常の塗装では、研磨を繰り返して塗膜を均一に整えます。
しかし今回は、缶スプレーで塗られたような質感を再現するため、終盤の数層ではあえて研磨を入れず、ウェットとドライを使い分けながら塗膜を作りました。
最後のクリアも強く濡らして吹かず、ドライ寄りに仕上げています。
その後、コンパウンドで軽く整え、塗りたての強い艶を抑えました。
ウェザーチェックとレリック
ウェザーチェックは、強く割れを見せるのではなく、光の角度で確認できる程度に留めました。
レリックについても、一般的なヘヴィーレリックのような派手な剥がし方ではなく、TKR-01の画像に見られる摩耗感や、手作業で塗られた塗膜が自然に削れていったような雰囲気を意識しています。
導電処理・パーツ加工・組み込み
キャビティ内には藤倉化成 D-500を使用し、導電塗料処理を行いました。
ピックガード、ネックプレート、ストリングリテイナー、ストラップピン、ナット、弦なども、全体の雰囲気を見ながら組み込みを行っています。
最終的には、弦高、オクターブ、トラスロッド、ピックアップ高さなどを確認し、演奏できる状態に仕上げました。


ピックガード加工
ピックガードは、ネックポケット部がそのままでは合わなかったため、ネックポケットに沿うように加工しました。
加工後は、ボディ・ネックとの取り合いを確認し、隙間やラインが不自然に見えないよう調整しています。
また、ボディのレッドが透けないようにピックガード背面を白で塗装し、裏面にも違和感のないようレリック加工を施しました。


Gallery
さいごに
SGCrafts Journeyman TKR-01の再現で難しいのは、単に形や色を似せることではありません。
このギターには、一般的な高級ギターのような整った美しさとは違う魅力があります。
むしろ、現場で使われる道具として、必要なことを優先して作られたような質感こそが、このモデルらしさだと感じます。
今回の制作では、赤の色味、黒ずみ、塗膜の粗さ、控えめなウェザーチェック、ザグリ変更、導電処理、トレモロ周辺加工まで、一つずつ検証しながら進めました。
きれいすぎない。
でも、雑ではない。
作った傷ではなく、使われてきたように見えること。
探りながら仕上げた一本です。
このたびは、大切なギターの制作をご依頼いただき、誠にありがとうございました。
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