Remake / Nitrocellulose Lacquer / Vintage Aging
この度は、Fender USA ’52 Telecaster Reissueのリフィニッシュをご依頼いただき、誠にありがとうございます。
今回のご依頼は、ボディトップ面のみを再塗装し、長年使い込まれてきた側面・背面の経年変化と自然に馴染ませるというものです。
一見すると、トップ面を既存のカラーに合わせるだけの作業に思えるかもしれません。
しかし、今回のリフィニッシュには大きな技術的課題がありました。
ポリ系下地にラッカーを重ねた既存の側面・背面と、下地からニトロセルロースラッカーで仕上げるトップ面。この異なる塗膜構成を、一本のギターとして違和感なく成立させること。
単純な色合わせでは解決できない、塗膜の厚み、エッジの丸み、艶、経年変化の表情まで含めたリフィニッシュとなりました。
お客様のご要望|30年の思い出を残す
今回のオーナー様は、10代の頃にこのTelecasterを購入され、約30年にわたり所有されてきました。
長く演奏されていた時期もあれば、しばらくケースの中で眠っていた時期もあったそうです。
その間に貼られたシールや落書きなどを取り除く過程で、ボディトップ面の塗装は剥がされた状態になっていました。
一方、側面と背面には、長年の使用による退色や塗装の摩耗が残っています。
オーナー様が希望されたのは、ギター全体を新品のように塗り直すことではありません。
「これまでの経年変化を残したまま、トップ面にも自然な色合いを取り戻したい」
というものでした。
側面や背面に刻まれた時間をそのまま活かし、トップ面だけを違和感なく再生する。
今回の製作では、このご希望を最も大切にしました。
Specifications|施工仕様
- Model: Fender USA ’52 Telecaster Reissue
- Body Color: Aged Blonde / Butterscotch Blonde
- Refinish Area: Body Top Only
- New Finish: All Nitrocellulose Lacquer
- Existing Finish: Poly-Based Undercoat + Lacquer(Back / Sides)
- Color Matching: Aged Blonde Matching
- Edge Treatment: Subtle Burst Blending
- Aging: Vintage Wear / Weather Checking
- Weather Checking Area: Body Top Roundover Only
- Protected Areas: Lightly Aged White
- Back / Sides: Original Aged Finish Preserved
既存の側面・背面の塗装は基本的に温存し、新規塗装はボディトップ面を中心に施工しています。
今回のリフィニッシュでこだわったこと
1. 異なる塗膜構成と、エッジの丸み
今回、特に難しかったのがボディ外周のエッジ部分です。
既存の側面・背面は、ポリ系下地にラッカーを重ねた塗装構成です。
これに対し、今回のトップ面は下地からニトロセルロースラッカーを使用しています。
オールラッカー仕上げでは、塗膜を薄く仕上げることができます。その薄さはヴィンテージらしい風合いを生む一方、既存の厚みのある塗装との違いが現れやすくなります。
特にエッジ部分では、塗膜の厚みの違いによって、角の丸み(R)の見え方に差が生じます。
既存の側面・背面には、塗膜の厚みが生み出す、どこかふっくらとした輪郭があります。
一方、オールラッカーのトップ面は、木部の形状がより直接的に表れます。
この違いを完全になくすことはできません。
そこで今回は、ラッカーを必要以上に厚くするのではなく、色の重なりや艶、エッジ部分の見え方を調整することで、既存塗装に近いふっくらとした印象を目指しました。
薄いラッカー塗膜の特性を残しながら、ギター全体の輪郭が自然につながるように仕上げています。
2. 接合部を目立たせないバースト処理
トップ面だけを新しく塗装する場合、最も注意が必要なのが既存塗装との境界です。
仮に色味を正確に合わせても、塗膜の厚みや反射の違いによって、塗装の切り替わる部分が目立ってしまうことがあります。
そこで今回、トップ面と側面の接合部分に、非常に控えめなバースト処理を施しました。
一般的なサンバーストのように、明確な色の変化を見せるためではありません。
外周部分の濃淡を微妙に調整し、トップ面から側面へ視線を移したときに、塗装の境界ができるだけ分からないようにするための処理です。
この部分は、単に色を濃くすれば自然になるわけではありません。
既存塗装の黄変具合や、エッジに沿った色の変化を確認しながら、違和感が少なくなるように調整しました。
3. ウェザーチェックは面取り部分だけに
ウェザーチェックとは、塗膜に生じる細かなひび割れのことです。
ヴィンテージギターらしい外観を作るうえで重要な要素ですが、今回はあえて加工範囲を限定しました。
理由は、既存の側面・背面の状態にあります。
オーナー様のギターでは、側面・背面のエッジ付近に経年によるウェザーチェックが見られました。
この状態に合わせるため、新しく塗装したトップ面でも、ウェザーチェックは面取り部分を中心に限定して施しています。
トップ面全体に大量のひび割れを入れてしまうと、新規塗装の部分だけが過度に古く見える可能性があります。
今回必要だったのは、ウェザーチェックの数を増やすことではなく、既存の経年変化とつながることでした。
4. 背面の使用感を基準にしたエイジング
経年加工では、傷の数や大きさだけで古さを表現しようとすると、不自然になる場合があります。
今回の基準としたのは、オーナー様が実際に長年使用されてきた背面の状態です。
背面には、演奏や保管によって生まれた塗装の摩耗、艶の変化、色の濃淡があります。
これらの特徴を参考に、トップ面のエイジングを調整しました。
大切にしたのは、トップ面だけが新しすぎず、かといって不自然に古くも見えないこと。
新しく作る傷や使用感が、これまでのギターの経年と矛盾しないように仕上げています。
5. パーツに隠れる部分の日焼け表現
今回、もう一つこだわったのが、ピックガードやブリッジなどのパーツに隠れる部分です。
長年使用されたギターでは、日光や外気にさらされていた場所と、パーツに覆われていた場所で色の変化が異なります。
その違いを表現するため、パーツの下になる部分には、白を基調としてわずかに黄ばみを加えた日焼け加工を施しました。
周囲のバタースコッチに近い部分とは、あえて色味を変えています。
パーツを組み込めばほとんど見えなくなる部分ですが、外した際にも自然な経年変化として感じられるようにしています。
見えない場所まで、長年使用されてきた一本としての整合性を保つ。
今回のリフィニッシュで大切にした要素の一つです。

Build Process|リフィニッシュ工程
1. 現状確認・下地準備
お預かりしたギターのトップ面には、以前の塗装剥離後に使用されたオイルワックスの履歴がありました。
塗装前の点検では、表面の状態、木部の吸い込みムラ、既存塗装との境界を確認しました。
大きな問題は確認されなかったため、トップ面の状態を整え、ラッカー塗装に向けた下地準備を進めました。
[工程写真:下地準備後のトップ面]
2. オールラッカー塗装
トップ面には、下地からニトロセルロースラッカーを使用しています。
ラッカーらしい薄い塗膜を保ちながら、既存の側面・背面の色味とできるだけ自然に調和させることを目標としました。
特に今回は、色合わせと塗膜の質感の両方が重要となるため、外周部分の見え方も考慮しながら塗装を重ねています。




3. バースト処理・エイジング
トップ面と側面の接合部分を自然に見せるため、エッジ周辺にバースト処理を施しました。
その後、既存塗装の経年状態に合わせて、使用感、艶の変化、面取り部分のウェザーチェックを加えています。
さらにパーツに隠れる部分には、わずかに黄ばみを加えた白の経年表現を施しました。
4. 組み立て・完成
塗装・エイジング工程を終えたボディにパーツを組み込み、一本のギターとして仕上げました。
最終的な外観では、トップ面だけを見たときの完成度に加えて、側面・背面を含めた全体の調和を重視しています。
Gallery|完成写真









さいごに|新しく塗ることと、古いものを残すこと
今回のリフィニッシュで最も大切にしたのは、30年という時間を消さないことでした。
ボディ全体を塗り直すのであれば、色や塗膜の厚み、ウェザーチェックの位置まで統一して設計することができます。
しかし今回は、そうした方法を選びませんでした。
オーナー様が長年使用されてきた側面・背面の経年変化を、そのまま残すことに意味があったからです。
異なる塗膜構成のため、トップ面と既存塗装が今後まったく同じように経年変化するわけではありません。
それでも、完成時の色味や質感をできるだけ自然に馴染ませ、これから新たな時間が加わっていく一本として仕上げることを目指しました。
新しい塗装で、古い時間を消してしまわないこと。
今回の製作を通して、改めて大切だと感じた点です。
オーナー様、この度は大切なギターのリフィニッシュをお任せいただき、誠にありがとうございました。
長年の思い出が詰まったTelecasterが、これからも演奏を通して新たな時間を重ねていくことを願っております。
リフィニッシュ・エイジング加工をご検討の方へ
ichimonzi Guitarsでは、ギターの状態やオーナー様のご希望に合わせたリフィニッシュ、エイジング加工を承っております。
既存の塗装を活かした部分的なリフィニッシュや、異なる塗膜構成の色合わせなども、ギターの状態を確認しながら施工方法をご提案いたします。
単に古く見せるのではなく、そのギターが持つ個性や、これまで重ねてきた時間を大切にすること。
その一本に適した仕上がりを考えながら、製作しています。
ichimonzi Guitars / Reborn










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