この度は、フルオーダー製作のご依頼をいただき、誠にありがとうございます。
今回は、John Fruscianteが使用する1960年製Telecaster Customをモチーフに、3トーンサンバースト、前後ダブルバインディング、ローズウッド指板、特徴的なピックガードの「f」マークなどを取り入れた一本を製作しました。
ただし今回のテーマは、単に外観を似せることではありません。
オーナー様は長年Stratocasterを中心に演奏され、Stevie Ray Vaughan、Jimi Hendrix、John Frusciante、John Mayerなどから強い影響を受けてこられたギタリストです。
そのため、
「John FruscianteのTelecasterらしさを保ちながら、長年Stratocasterを弾いてきたプレイヤーが自然に持ち替えられるTelecaster」
という方向から、ネック、フレット、電装、最終セットアップまでを設計しました。
お客様のご要望
今回のオーナー様は、長年Fender Stratocasterを中心に演奏されてきました。
1970年代のFender USA Stratocasterをはじめ、SRVをモチーフとしたギターの製作・カスタム経験もあり、ギターだけでなくベース、ドラムまで演奏される非常に音楽経験の深い方です。
お好きなアーティストも、
- Stevie Ray Vaughan
- Jimi Hendrix
- John Frusciante
- John Mayer
- Tom Morello
- MIYAVI
など幅広く、特に「好きなアーティストが使用する楽器そのものにも惹かれる」というお話を伺いました。
所有するギターの多くがStratocasterである一方、
「そろそろTelecasterを一本所有したい」
というところから今回の製作が始まりました。
その中でも最も手にしてみたいと思われたのが、John Fruscianteの1960 Telecaster Customでした。
主なご要望は、
- John Fruscianteの1960 Telecaster Customをモチーフとすること
- 3トーンサンバースト
- 前後ダブルバインディング
- ローズウッド指板
- ピックガードの特徴的な「f」マーク
- Fender Pure Vintage ’64 Telecaster Pickup Set
- Master Build仕様
- ニッケル製ミディアムジャンボフレット
- 指板R 9.5インチ
- 10–46弦に合わせたナット調整
- 5-wayセレクター
- Stratocasterタイプのセレクターノブ
- 外観だけでなく「枯れたTelecasterらしいサウンド」を重視すること
です。
John Fruscianteの1960 Telecaster Customについて
John FruscianteのTelecaster Customは、彼を象徴するヴィンテージStratocasterとは異なるキャラクターを持つ一本です。
当時のギターテックDave Leeの説明では、JohnがTelecasterを探していた時期にNorman’s Rare Guitarsから持ち込まれ、試奏したJohnがその音を気に入り使用するようになったとされています。
外観では、3トーンサンバースト、ボディ前後のホワイトバインディング、ローズウッド指板、ミント系ピックガード、3サドルブリッジ、そしてピックガードに入った特徴的な「F」マークなどが確認できます。
このギターで興味深いのは、外見上は非常にオーソドックスなヴィンテージTelecasterでありながら、Johnが弾いたときには極めて特徴的なサウンドになることです。
実機のピックアップについて、巻き数や磁石などの内部仕様まで公表された確実な資料は確認できません。そこでichimonziでは、確認できない部分を推測で断定するのではなく、初期60年代のTelecasterとして矛盾の少ない構造とサウンドから設計しています。
「枯れた音」をパーツだけで作らない
ヴィンテージギターの音を考えるとき、ピックアップだけが注目されることがあります。
しかし、実際のギターでは、
- 木材
- ネックとボディの接合
- ブリッジ
- サドル
- フレット
- ナット
- 塗膜
- ピックアップ
- 電装
- セットアップ
が互いに影響しています。
ichimonziでは、寸法を単純に正確に揃えることだけを目的にせず、ヴィンテージFenderに見られる個体差や木工上の余白も観察しながら、一本の楽器として鳴るポイントを探します。
新品でありながら過度に硬く整いすぎた音にせず、
乾いていて、反応が速く、コードでは各弦が分離し、強く弾いたときにはTelecasterらしいアタックが現れること。
これを今回のサウンド設計の中心としました。
Specifications
Body
- Body Style:1960 Telecaster Custom Style
- Binding:Front & Back Double Binding
- Finish:Nitrocellulose Lacquer
- Color:Aged 3-Tone Sunburst
- Aging:Heavy Relic / Natural Weather-Checking
- Build Grade:Master Build
Neck
- Neck Style:Early 60s Telecaster Style
- Fingerboard:Rosewood
- Fingerboard Radius:9.5 inch
- Frets:JIM DUNLOP 6105 / Nickel
- Nut Setup:10–46
- Neck Finish:Aged Nitrocellulose Lacquer
- Neck Aging:Ambering / Wear / Weather-Checking
Electronics
- Pickups:Fender Pure Vintage ’64 Telecaster Pickup Set
- Controls:CTS 250kΩ ×2
- Selector:Oak Grigsby 5-Way
- Output Jack:Switchcraft
- Wiring:Vintage-Style Cloth Wire
- Selector Knob:Stratocaster Style
- Additional Function:Tone Bypass
Hardware
- Bridge:Fender Vintage-Style 3-Saddle Telecaster Bridge
- Saddles:Brass
- Tuners:Fender American Vintage Style
- Pickguard:Mint Green 3-Ply
- Pickguard Mark:Hand-worked “f” Mark
- Control Knobs:Vintage-Style Barrel Knobs
- String Tree:Vintage-Style
- Hardware Aging:Aged Finish
7.25インチではなく9.5インチを選んだ理由
1960年前後のヴィンテージFenderを忠実に追うのであれば、7.25インチRは非常に自然な選択です。
実際、以前製作したJohn Frusciante Telecaster Custom Inspiredでは、7.25インチR、Vintage Smallフレット、3-wayという、よりヴィンテージ側へ寄せた構成を採用しました。
今回はあえて9.5インチRを採用しています。
理由はオーナー様の演奏スタイルです。
7.25インチRには、コードを握ったときの独特な丸みとヴィンテージらしい感触があります。
一方で、ハイポジションで大きくチョーキングした場合、セッティングによっては弦が指板Rに近づき、音詰まりが発生しやすくなります。
9.5インチRは、そのFenderらしい丸みを大きく失うことなく、
- チョーキング
- ビブラート
- ハイポジション
- 弦高調整
の許容幅を広げることができます。
特にSRV、Jimi Hendrix、John Frusciante、John Mayerなどに共通する、チョーキングやビブラートを多用するブルース/ロック系の演奏には非常に相性の良い仕様です。
JIM DUNLOP 6105 Nickel
フレットにはJIM DUNLOP 6105を採用しました。
ステンレスフレットは摩耗に強く非常に優れた素材ですが、今回はヴィンテージFenderをモチーフとした製作です。
そのため素材にはニッケルを選択しています。
6105はVintage Smallより高さを確保できるため、
- チョーキング
- ビブラート
- ハンマリング
- プリング
などで指板面との摩擦が少なく、演奏者が弦を直接コントロールしやすくなります。
今回の9.5インチRとの組み合わせによって、
ヴィンテージTelecasterの雰囲気と、現代の演奏性との中間
を狙っています。
Fender Pure Vintage ’64 Telecaster Pickup Set
John Frusciante実機のピックアップ内部仕様について確実な情報が確認できないため、今回はFender Pure Vintage ’64 Telecaster Pickup Setを採用しました。
選定理由は、単純にFender製だからではありません。
今回必要だったのは、高出力で音を作り込むピックアップではなく、
ギター本体の鳴りを隠さず、Telecaster本来のアタックと減衰を残すヴィンテージ系ピックアップ
でした。
Bridgeでは明確なアタック。
Neckでは柔らかさを残しながら輪郭のあるクリーントーン。
二つを組み合わせたときには、コードの分離を失わないこと。
今回の木工・塗装・ハードウェアとの組み合わせに適した選択です。
5-Way Selector|Telecasterの基本音を壊さない拡張
一般的なTelecasterでは3-wayセレクターを使用します。
しかし今回は、オーナー様が長年Stratocasterを使用されてきたことも踏まえ、Stratocasterタイプの5-wayレバーを採用しました。
重要なのは、5-wayにしたからといってTelecaster本来の音を失わないことです。
基本となる、
- Bridge
- Bridge + Neck
- Neck
の3音を残したうえで、Tone回路を介さないTone Bypassを追加しました。
Tone Bypassでは、Bridge Pickupをより直接的にVolume側へ送り、通常ポジションよりわずかに明るく、アタックの立った音を得られます。
特殊な音を大量に追加するのではなく、
通常のTelecasterとして使えることを第一に、その先に一つだけ別の表情を加える。
という設計です。
ピックガードの「f」マーク
John FruscianteのTelecaster Customを印象づける、小さいながら重要な特徴がピックガード上の「f」マークです。
今回もこの特徴を取り入れています。
単純なプリントではなく、ピックガード全体の経年感との整合を見ながら手作業で再現しました。
マークだけが新しく浮き上がって見えないよう、
- ピックガードの黄変
- 艶
- エッジ
- 摩耗
- 周囲とのコントラスト
を含めて調整しています。
なお、本製作はichimonziによる独自製作ギターであり、ヘッドストックへFender商標を使用して製作するものではありません。
Master Build|傷ではなく時間を作る
今回もMaster Build仕様を採用しています。
特にJohn FruscianteのTelecasterのようなヴィンテージギターでは、目立つ傷を増やせばリアルになるわけではありません。
重要なのは、
なぜ、その場所がそのように変化したのか。
という時間の整合性です。
例えば、
- ピッキングによる摩耗
- 腕が触れる部分の艶の変化
- 衣服との接触
- ストラップ周辺
- ケースとの接触
- パーツ下に残る元のカラー
- ラッカーの乾燥収縮
- 木材と塗膜の動き
- 金属パーツの酸化
は、それぞれ異なる原因で生まれます。
これらを同じ加工方法で表現すると、ギター全体が人工的に見えてしまいます。
Master Buildでは、一つひとつの要素を分けて考え、最後に一本の時間軸として統合します。
3-Tone Sunburstと退色
今回の3トーンサンバーストでは、新品時の鮮やかな赤をそのまま残すのではなく、長期間使用された個体として退色を設計しています。
特に重要なのが、
パーツの下と露出していた場所で色が同じではないこと。
ピックガードやブリッジなどに覆われていた部分は紫外線の影響を受けにくいため、色の残り方が変わります。
完成状態だけではほとんど見えない部分ですが、こうした箇所を作ることで、パーツを外した際にも時間の整合が崩れません。
Double Binding
Telecaster CustomをTelecaster Customとして成立させる大きな要素が、前後のダブルバインディングです。
通常のTelecaster以上に外周線が強調されるため、
- ボディ外形
- バインディング溝
- 接合部
- カラーとの境界
の精度がそのまま完成時の印象に現れます。
新品状態の直線的なバインディングを作ったうえで、塗膜の痩せ、黄変、摩耗を重ね、
精密に作られているのに、新品には見えない
状態へ整えています。
Build Process|製作工程
1. 木材選定
木材の重量、木目、剛性、加工後の安定性を確認します。
ヴィンテージギターらしいサウンドを求めながらも、完成後にネックやボディが不安定になるような材料は使用しません。
[製作工程画像]
2. Body / Neck 木工
ボディ外形、ネックポケット、ピックアップキャビティ、コントロールキャビティ、ネック外形を加工します。
一度に完成寸法まで削らず、木材の動きを確認しながら段階的に進めます。
[製作工程画像]

3. Double Binding
ボディ前後へバインディング溝を加工し、接着・固定後にボディ面へ合わせて整形します。


4. Rosewood Fingerboard
指板を9.5インチRへ整え、フレット溝、ポジションマークを加工します。





5. JIM DUNLOP 6105 Fretwork
ニッケル製JIM DUNLOP 6105を打設。
フレット高さ、端部、レベリングを調整し、チョーキング時の音詰まりが起きにくい状態へ仕上げます。
6. 塗装前仮組み
ブリッジ、ネック、ピックガードなどを仮組みし、
- スケール
- センターライン
- ネックポケット
- ブリッジ位置
- ピックガード位置
- バインディングとの関係
を確認します。
7. Nitrocellulose Lacquer
下地からニトロセルロースラッカーを使用。
乾燥と研磨を繰り返し、必要以上に厚い塗膜にならないよう仕上げます。
8. 3-Tone Sunburst
Yellow / Red / Blackの層を構築。
実機資料を参考にしながら、赤の残り方、ブラック外周の幅、バインディングとの境界を調整します。




9. Aging / Weather Checking
傷を均一に配置するのではなく、使用環境を想定しながら、
- 塗膜摩耗
- 艶の変化
- ウェザーチェック
- エッジ摩耗
- 黄変
- パーツ下の色差
を個別に作ります。
10. Hardware Aging
ブリッジ、ペグ、コントロールプレート、ノブ、ネジなどもボディとの時間差が生まれないよう加工します。
11. Hand-Worked “f” Pickguard
ピックガードのエイジング後、John Fruscianteの個体を印象づける「f」マークを手作業で仕上げます。
12. Electronics
Fender Pure Vintage ’64 Telecaster Pickup Set、CTS 250kΩ、Oak Grigsby 5-way、Switchcraft Jackを組み込みます。
通常Telecasterの基本音を残しながら、Tone Bypassを含む拡張配線を構成。
導通、位相、ノイズ、各ポジションの出力を確認します。
13. Final Assembly
すべてのパーツを組み込み、Elixir 10–46を基準にセットアップ。
ナット溝、ネックリリーフ、弦高、オクターブ、ピックアップ高を調整します。
弦を張った直後に完成とはせず、張力が加わった状態でネックを馴染ませ、その後トラスロッドと弦高を再調整しています。
Gallery















さいごに
今回の製作で大切にしたのは、
「John FruscianteのTelecasterを見たときの憧れ」と「実際に手に取ったときに演奏したくなる楽器」であることを両立すること
でした。
3トーンサンバースト。
ダブルバインディング。
ローズウッド指板。
ピックガードの「f」。
ウェザーチェック。
使い込まれた金属パーツ。
こうした視覚的特徴はもちろん重要です。
しかし、それだけでは楽器として完成しません。
今回、9.5インチRと6105フレットを採用したのも、5-way配線を採用したのも、John Fruscianteのギターから離れるためではなく、
オーナー様が実際に弾き続けるギターとして成立させるため
です。
元となった一本へのリスペクトを持ちながら、木材から製作し、塗装、経年表現、電装、セットアップまで一貫して仕上げました。
長くお待ちいただき、本当にありがとうございました。
新しいTelecasterとして、これからオーナー様自身の時間が加わっていくことを楽しみにしています。
John Frusciante仕様のTelecasterをご検討の方へ
ichimonziでは、John Fruscianteの1960 Telecaster Customをモチーフとしたフルオーダー製作を承っております。
- 木材からのフルオーダー
- Double Binding Telecaster Custom
- 3-Tone Sunburst
- Nitrocellulose Lacquer
- Heavy Relic / Natural Weather Checking
- ピックガードを含めたエイジング
- 60年代仕様のローズウッド指板
- 7.25 / 9.5インチなど演奏スタイルに合わせた指板R
- Vintage Small / 6105等のフレット選択
- 3-way / 拡張配線
- Master Build仕様
- 音、外観、演奏性を含めた個別設計
特定個体をモチーフとする場合も、確認できない仕様を推測だけで断定するのではなく、公開資料、年代仕様、オーナー様の演奏スタイルを照合しながら設計します。
「同じ見た目」を作ることだけではなく、
なぜそのギターに惹かれるのか。
そこから一本の楽器として組み立てていくことを大切にしています。
※本製作はichimonziによる独自のオーダー製作です。Fender Musical Instruments CorporationおよびJohn Frusciante本人との提携、承認、公式シグネチャーモデルであることを示すものではありません。










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