この度は、フルオーダー製作のご依頼をいただき、誠にありがとうございます。
今回は、John Fruscianteが長年メインギターとして使用している1962年製Stratocasterをモチーフに、木材の選定から木工、塗装、電装、エイジング、最終セットアップまでを一貫して製作しました。
単に写真上の傷を写すのではなく、1960年代初期のStratocasterが持つ構造と空気感を基礎に、塗膜の退色、摩耗、木部の露出、パーツの経年感を一本の履歴として成立させることを重視しています。
※本製作では、公開資料から確認できる特徴と年代仕様を設計の基準としています。写真から確認できない個体内部や、経年によって変化した数値までを推測で断定するものではありません。
お客様のご要望
今回いただいたご要望は、John Fruscianteの1962年製Stratocasterを基準とした、本格的なフルオーダー製作です。
主なご要望は次のとおりです。
- John FruscianteのメインStratocasterをモチーフとすること
- 1960年代初期の構造と外観を基礎としながら、現代の製作環境や入手可能なパーツの範囲で再現性を高めた仕様とすること
- 3トーンサンバーストの退色と、長年弾き込まれた摩耗を再現すること
- 木材、ハードウェア、電装まで含めて一貫した仕様とすること
- Ilitch BPNCSを使用し、シングルコイルらしい音色とノイズ低減を両立すること
- 見た目だけでなく、演奏性と楽器としての完成度も重視すること
- Master Build仕様として、細部まで精度を高めること
外観だけを似せるのではなく、木工・塗装・パーツ・電装のすべてが同じ方向を向いた一本を目標としました。
John Fruscianteの’62 Stratocasterについて
John Fruscianteの1962年製Stratocasterは、1998年にRed Hot Chili Peppersへ復帰した時期から使用されている、彼を象徴する一本です。
2022年の本人インタビューでは、このギターにオリジナルのハンドワウンド・ピックアップが残され、後にIlitchのハムキャンセリングシステムが追加されたことが語られています。
外観上の大きな特徴は、退色した3トーンサンバースト、ミントグリーンのピックガード、ローズウッド指板、そして長年の演奏によって形成された大きな塗膜摩耗です。
しかし、このギターらしさは傷の形だけで決まるものではありません。
- サンバーストの赤が残る場所と消えている場所
- ブラック外周の痩せ方
- クリア塗膜の黄変と透明感
- ピッキングや腕の接触による摩耗
- パーツに隠された部分との色差
- ネックとボディの経年感の釣り合い
これらが同時に成立することで、使い込まれた一本としての説得力が生まれます。
Fender Custom Shopからも公式モデルが製作されていますが、今回のギターはその製品を複製したものではありません。本人使用機、公開資料、1960年代初期の仕様を基礎として、ichimonzi独自のフルオーダー製作として仕上げています。
Specifications
Body
- Body Wood:AAグレード Alder 2-Piece
- Body Style:’60s Stratocaster Style
- Finish:Nitrocellulose Lacquer
- Color:Aged 3-Tone Sunburst
- Aging:Heavy Relic / Natural Weather-Checking
- Build Grade:Master Build
Neck
- Neck Wood:AAグレード Maple
- Fingerboard:AAグレード Rosewood / Slab Style
- Fingerboard Radius:7.25 inch
- Frets:Vintage Small
- Neck Finish:Aged Nitrocellulose Lacquer
- Neck Aging:Ambering / Wear / Weather-Checking
Electronics
- Pickups:Seymour Duncan SSL-1 Vintage Staggered Strat ×3
- Hum-Canceling System:Ilitch BPNCS
- Controls:CTS 250kΩ ×3
- Selector:MONTREUX(モントルー)OAK 5-Way Switch [838]
- Output Jack:Switchcraft
- Wiring:Vintage-Style Cloth Wire
Hardware
- Bridge:Fender American Vintage Series Stratocaster Tremolo Assembly
- Tuners:Vintage-Style Split-Shaft
- Pickguard:’60s 11-Hole Mint Green
- Knobs / Plastic Parts:Aged White
- String Tree:Vintage-Style Wing
- Neck Joint:4-Bolt
- Hardware Aging:Vintage Aged Finish
※仕様名は部品の構造・規格を示すための表記です。
こだわったポイント
1. サンバーストを「三色」で終わらせない
3トーンサンバーストは、イエロー・レッド・ブラックを順番に塗れば完成するものではありません。
今回の製作では、長期間の紫外線や摩耗によって赤が薄くなり、場所によってはイエローとの境界が曖昧になった状態を想定しました。
一方、ピックガードやパーツに隠れていた部分には色が残ります。
表面の色だけでなく、露出部と非露出部の時間差まで含めて設計することで、分解した際にも不自然さが出にくい仕上がりとしています。
2. 木地・下地・カラー・クリアの層を分けて考える
当店のレリック加工は、完成した塗装の表面へ傷を描くだけの方法ではありません。
- 木地
- シーラー
- カラー
- クリア
各層の厚みと硬さを調整し、場所に応じて異なる層が現れるように製作しています。
すべての摩耗箇所で同じ色、同じ深さ、同じ輪郭が現れると、人工的な印象が強くなります。塗膜の欠け方、境界の丸まり、木肌への移行まで個別に調整しました。
3. 写真によって変わる色を一つの塗色へ整理
実機写真は、自然光、室内照明、ライブ照明、カメラのホワイトバランスによって色が大きく異なります。
そのため、特定の一枚だけを色見本にするのではなく、複数の資料を比較し、1960年代の3トーンサンバーストを基準として色を組み立てました。
明るい場所ではイエローと退色した赤が見え、暗い場所ではブラック外周が締まって見えるよう、光による表情の変化も意識しています。
4. 摩耗の量より、演奏動作との整合性を優先
レリック加工で重要なのは、傷の多さではなく、なぜその場所が摩耗したのかが自然に読み取れることです。
腕が触れる位置、ピッキングが集中する範囲、衣服やストラップとの接触、スタンドやケースによる小傷を分けて考えました。
大きな剥離だけを目立たせず、その周囲にある細かな摩耗や艶の変化を重ねることで、使用履歴が連続して見えるようにしています。
5. 自然なウェザーチェック
ウェザーチェックは、本数を増やせば古く見えるものではありません。
線の細さ、方向、密度、分岐、交差、ボディ形状との関係が揃って初めて、ラッカー塗膜の経年変化として成立します。
今回は部位ごとの塗膜状態を見ながら、均一になりすぎないクラックを形成しました。
6. ネックとボディを別々に古く見せない
ボディだけが激しく退色し、ネックだけが新品に見えると、一本のギターとして違和感が残ります。
ネックには透明感を保ったアンバー、塗膜の痩せ、グリップ部の摩耗、ヘッド周辺の経年感を加え、ボディと同じ年月を過ごしたように見えるバランスへ調整しました。
演奏時に触れる部分は過度に粗くせず、外観とプレイヤビリティを両立しています。
7. SSL-1とIlitch BPNCSの組み合わせ
実機のピックアップには未公開の情報があり、市販品で内部仕様まで完全に同一であることを保証できる製品は存在しません。
今回採用したSeymour Duncan SSL-1は、Alnico V、ヴィンテージ・スタッガード、低出力という、初期のStratocasterを基礎とした設計です。
通常仕様のSSL-1を3基揃え、各ピックアップを実測確認したうえでIlitch BPNCSと組み合わせました。
これにより、シングルコイルらしい明るさ、反応、分離感を保ちながら、実用上問題になりやすいハムノイズを低減しています。
8. 見えない部分の精度
ネックポケット、ピックアップキャビティ、配線、アース、ネジ穴、ブリッジ位置など、完成後には見えにくい部分も楽器の精度を左右します。
外観のレリック加工だけに比重を置かず、組み込み精度、電装の安定性、弦振動の伝達、調整範囲を確保しました。
Build Process|製作過程
1. 木材の選定
アルダー、メイプル、ローズウッドの状態と木取りを確認し、ボディとネックに使用する材料を選定します。
木目の美しさだけではなく、重量、剛性、加工後の安定性を確認します。
2. ボディ・ネックの粗加工
ボディ外周、ネック外形、指板、各キャビティの基準を作ります。
削り代を残した状態から段階的に加工し、木材の動きを確認しながら寸法を整えます。

3. ボディ木工
ボディ外周、コンター、ネックポケット、ピックアップキャビティ、コントロールキャビティ、ブリッジ周辺を加工します。
外形だけでなく、ネック・ブリッジ・弦の中心線が正しく揃うことを優先します。




4. ネック木工
ネックグリップ、ヘッド、指板R、フレット溝、ポジションマークを加工します。
最終的な握り心地を確認しながら、60年代初期の印象を損なわないシルエットへ整えます。






5. 仮組みと位置確認
塗装前にボディとネックを仮組みし、センター、ネック角度、ブリッジ位置、ピックガード、各パーツの収まりを確認します。
塗装後に位置関係を修正する必要がないよう、木工段階で整合を取ります。
6. 下地処理
木地を整え、下地塗装、乾燥、研磨を繰り返します。
レリック加工後に現れる層と、塗膜が残る部分の透明感を両立できる厚みに調整します。
7. 3トーンサンバースト
イエロー、レッド、ブラックを順番に構築します。
完成直後の均一なサンバーストではなく、その後の退色と摩耗を見越して、色の幅と濃度を調整しています。


8. クリア塗装・乾燥・研磨
ニトロセルロースラッカーのクリアを塗布し、乾燥と研磨を重ねます。
極端に厚い塗膜を避け、木目の気配とラッカー特有の質感を残します。
9. レリック加工とウェザーチェック
資料を基準にしながら、演奏動作、塗膜の構造、各部の時間差を踏まえて摩耗を形成します。
傷を一つずつ独立させるのではなく、退色、艶、クラック、木部露出を連続した経年変化としてまとめます。


10. パーツエイジング
ブリッジ、ペグ、ネジ、ピックガード、ノブなどを、ボディとネックの経年感に合わせて調整します。
過度な腐食や機能低下を避け、使用に必要な精度を残しています。

11. 電装・Ilitch BPNCSの組み込み
SSL-1各基の直流抵抗、磁極、位相を確認し、Ilitch BPNCSと組み合わせます。
配線後に各ポジションの出力とノイズ低減効果を確認します。

12. 最終組み込み・セットアップ
ナット、弦高、ネックリリーフ、オクターブ、トレモロ、ピックアップ高を調整します。
外観だけで完結させず、演奏時の反応と扱いやすさを確認して完成です。
Gallery


















さいごに
John Fruscianteの’62 Stratocasterをモチーフとした製作では、大きな傷の位置だけを合わせても、実機が持つ空気感には近づきません。
サンバーストの退色、塗膜の層、木部の露出、艶の差、パーツの使用感、ネックの色合い、電装の構成までを一つの設計としてまとめる必要があります。
今回も、公開資料から確認できる特徴を基準としながら、一本の楽器として構造・外観・演奏性に矛盾が生じないことを優先して仕上げました。
John Frusciante仕様のギターをご検討の方へ
ichimonziでは、John FruscianteのStratocasterをモチーフとしたフルオーダー製作、リフィニッシュ、レリック加工を承っております。
- 3トーンサンバーストの色調設計
- ニトロセルロースラッカーによる薄膜塗装
- Heavy Relicと自然なウェザーチェック
- ボディ・ネック・パーツを含めた経年感の統一
- ヴィンテージ系ピックアップとIlitchの組み合わせ
- 木材からのフルオーダー製作
- お手持ちのギターを使用したリフィニッシュ
特定の個体をモチーフとする場合、公開資料で確認できる特徴と年代仕様を照合し、資料から確認できない部分は根拠なく断定せず、楽器としての整合性を優先してご提案します。
ご希望の年代、仕上がり、演奏性、ご予算を添えて、お問い合わせフォームよりご相談ください。
※本製作はichimonziによる独自のオーダー製作です。Fender Musical Instruments CorporationおよびJohn Frusciante本人との提携・承認を示すものではありません。










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